問題の傾向
設問形式は、第19回から変更はないようです。しかしながら今回「問い1」で登場した指定語句「励まし」は、過去の指定語句とは傾向が変わったものとなっています。一般的な「励まし」の意味は「元気づける」「力づける」「激励する」ですが、キャリアコンサルト試験では、アイビーのマイクロカウンセリングにおける基本的傾聴技法のひとつと捉えるべきものと考えます。「励まし」は、クライエントの言葉を短く繰り返して、クライエントが自分の気持ちや考えを探求し、語ることを励まされる傾聴技法のことなのです。
「励まし」が指定語句として提示されたことで、出題傾向が変わった(難化した)という見方もできます。マイクロカウンセリング技法に関する基本的な知識も要求されることになります。今後の指定語句として、「励まし」の他、「いいかえ」や「要約」「感情の反映」などが登場する可能性もありますので、今後はそれらの指定語句の対策、準備が必要かもしれません。
「問い1」の解き方
「問い1」を短時間で効率よく減点を少なく切り抜けるためには、やはり指定語句から逐語録の該当箇所を抜き出し、展開の違いを述べるやり方がベストだと考えます。「問い1」の問題のポイントは「キャリアコンサルタントの対応による展開の変化」です。指定語句はキャリアコンサルタントの対応、つまりキャリアコンサルタントの発言から指定語句の該当個所を確認していきます。
指定語句は、抽象的で使用方法に迷う場合がありますので、前後に言葉を付け加え、具体的にイメージし易いように加工し、クライエントの内省が進む展開(事例Ⅱ)で使われるものと、内省が進まないア展開(事例Ⅰ)に区分けします。具体的には下記の通りです。
- 「好意的関心」→「好意的関心を持つ」(内省が進む展開)(事例Ⅱから)
- 「励まし」→「語りを励まし」(内省が進む展開)(事例Ⅱから)
- 「固定観念」→「固定観念を押し付ける」(内省が進まない展開)(事例Ⅰから)
- 「内省」→「内省を促す」(内省が進む展開)(事例Ⅱから)
- 「ものの見方」→「一方的なものの見方」(内省が進まない展開)(事例Ⅰから)
指定語句が上記のように整理できれば、具体的な逐語録の該当箇所を特定していきます。CCtの発言は、事例Ⅰは5回、事例Ⅱでも5回です。この中から該当箇所を特定していきます。
- 「固定観念を押し付ける」→事例ⅠCCt7:まだ入社2年目ですので、いざとなると、会社の中で他の人とどのように連携していくのかなどの仕事のやり方が、まだ身についていないのかもしれませんね。
- 「一方的なものの見方」→事例ⅠCCt8:これからはそれが当たりまえになっていき、そのやり方に慣れていくのではないですか
- 「好意的関心を持つ」→事例ⅡCCt7:今回のことで、相談することをためらわれたことがあったのですか
- 「語りを励まし」→事例ⅡCCt8:それで相談することをためらわれたのですか
- 「内省を促す」→事例ⅡCCt10:相談や質問をためらう時はどんな気持ちが湧くのですか
指定語句が逐語録のCCtの発言のどの部分に該当するのか特例できれば、あとは解答パターンに当てはめてまとめていくことになります。毎回ご説明していますが「問い1」の設問にある「違い」とは事例Ⅰと事例Ⅱの「展開の違い」を述べるものと考えられるため、解答の基本パターンは「事例Ⅰでは、①のため、②という展開になっている。一方事例Ⅱでは、③のため、④という展開になっている。」 ということと考えられます。①③には「CCtの発言」、②④には「面談の展開方向」を入れていきます。ここで「面談の展開方向」とは、例えば、CLの自己探索(内省)が進む方向になっているか、進まない方向なのか、ということになります。
また、面談することの目的に沿った基本的な流れを盛り込むことも重要と考えます。つまり、「受け止め」⇒「寄り添い」⇒「経験の再現」⇒「自己探索」⇒「気づき」ができているかどうか、という流れです。事例Ⅰ・Ⅱの共通部分の最後のCLの発言は、CLの感情が込められた言葉が必ず出てきます。この言葉を受け止めているか、受け止めていないかが、面談の方向性の違いのきっかけになっています。今回のキーワード(自己概念の影)はズバリ、「ためらう自分」です。ここはしっかり押さえましょう。解答パターンの基本形に上記の要素を組み込んだパターンの例は次の通りです。
「事例Ⅰでは、CLの(感情)という感情を受け止めようとせず、「(内省が進まない具体的なCCtの応答の内容)」という(指定語句)のため、CLに寄り添うことなく、CLの自己探索が進まない展開となっている。一方事例Ⅱでは、CLの(感情)という感情を受け止め、共感して、 「(内省が進む具体的なCCtの応答の内容)」という(指定語句)のため、CLの自己探索が進む展開となっている。」
このような解答パターンをあらかじめ用意しておき、試験本番ではこれに逐語録で特定した指定語句を当てはめてゆくのです。
「問い1」の解答例
事例Ⅰでは、「ためらう自分が気になる」というCLの葛藤が含まれた言葉を受け止めず、「まだ入社2年目ですので、いざとなると、会社の中で他の人とどのように連携していくのかなどの仕事のやり方が、まだ身についていないのかもしれませんね。」というCCtの固定観念や「これからはそれが当たりまえになっていき、そのやり方に慣れていくのではないですか。」といったCCtの一方的なものの見方の応答で、CLに寄り添うことなく、CLの自己探索が進まない展開となっている。一方事例Ⅱでは、CLの「ためらう自分もいる」というCLの感情を受け止めて、「今回のことで、相談することをためらわれたことがあったのですか。」と好意的関心を持って応答したり、「それで相談することをためらわれたのですか。」とCLの語りを励ましたり、 「相談や質問をためらう時はどんな気持ちが湧くのですか。」とCLの内省を促すことで、CLの自己探索が進む展開となっている。
「問い2」の解き方
CCtの応答が相応しいか、相応しくないかを理由をつけて答える問題。CCtとしての応答で「やってはいけないこと」(=相応しくない応答)「やらなくてはならないこと」(=相応しい応答)をあらかじめ整理しておば、即答可能です。「やらなくてはならないこと」とは養成講座テキストなどで次のように示されています。
- クライエントにとって良い問題解決や成長を導き出す
- 目の前のクライエントをしっかり見てニーズを感じる
- 問題解決のプロセスを促すかかわり
- クライエントの自己探求を深める質問
- クライエントの自問自答を促す質問
- クライエントが自分の問題を明確にしていくのを支援する質問
- クライエントの語りを促す
- クライエントの自己探求を励ます
- 焦点をクライエントのニーズに当てる
「やってはならないこと」は、以下の通りです。
- 正しい答えは何だろうと考える
- キャリアコンサルタントが自分の興味で質問する
- クライエントをキャリアコンサルタントの力で方向づけてしまう
- キャリアコンサルタントが何気なく思いつきで自己開示する
- キャリアコンサルタント自身が話したいことを話す
- キャリアコンサルタントの価値観で・・・
- キャリアコンサルタントが断定的に・・・
- 問題解決に走る
- 一方的に決めつける
「問い2」の解答例
事例ⅠのCCt10:相応しくない(理由:「何か考え方を変えないといけない」と考えているAさんの気持ちを受け止めず、Aさんの内省を中断させ、CCtの価値観を一方的に押し付ける応答で、Aさんに寄り添っていない。)
事例ⅡのCCt11:相応しい(理由:「能力がないと思われるのが嫌だったかもしれない」というAさんの言葉を受け止めて、その意味を問う応答で、Aさんの自問自答を促している。)
「問い3」の解き方
まず、「相談者の問題」の本質(相談者の問題とはどのようなことを指すのか?)を整理・理解しておくことが大前提となります。
相談者は様々な悩みを抱えて相談に来ます。その「悩み」の中身は「不安」「不満」「葛藤」に分類できます。それらが生じている原因は、「自己概念」と「経験」とが合致していないためということになります。その合致していない原因に当たるものが「相談者の問題点」であると言えます。相談者はそうした「自身の問題点」があることに気づいていない、または「環境や他者に問題がある」と思い込んで相談にやって来るのです。
「相談者の問題点」導き出すための手順としては、設問の逐語録を読み解き、面談を俯瞰して、その流れ(ポイント)をまとめて、「来談動機」「自己概念」「経験」「自己概念の影」を整理して、相談者の「主訴」を想定していくことが早道となります。主訴を想定する上でヒントとなる重要な要素は「自己概念の影」を的確に捉えることです。例えば下記のように整理します。
- 来談動機:今の仕事をこのまま続けていけるのか不安になった
- 自己概念:他人に頼らず自分でやってみることが、自分の強みであり能力である
- 経験:仕事上の不安を上司や先輩に相談しようとしたが、邪魔をしてはいけないと思い声をかけることができなかった
- 自己概念の影:ためらう自分
「主訴」とは、現在相談者自身に降りかかっている「悩み」(「悩み」(「不安」「不満」」「葛藤」など)を無くしたい、解決したい、自身の「ありたい姿」を実現したい、ということです。これらを整理して今回の主訴を想定すると次のようになります。
主訴:周りの様子を気遣って、相談することをためらう自分を変えたい。
「問い3」の解答例
他人に頼らず自分でやってみることが、自分の強みであり能力であるという思い込みがあるため、仕事上の不安を上司や先輩に相談しようとしたが、邪魔をしてはいけないと思い声をかけることができなかった。
「問い4」の解き方
今後の面談の方向性は、相談者の主訴(周りの様子を気遣って、相談することをためらう自分を変えたい。)を意識し、相談者の問題点を前提とした解決に向けた支援ということになります。事例Ⅱの最後のクライエントの発言がその後のやりとりの出発点となります。
「う~ん」と自己探索が進んでいることが示され、「自分の弱さを見せたくないからかもしれない」と、気づきが始まっています。さらに「自分を守る」というキーワードも出てきました。キャリアコンサルタントとしては、この発言を捉えて、さらにクライエントの自己探索をさらに深めて「気づき」を「自己決定」へ導く支援をしていくことになります。
「問い4」の解答例
他人に頼らず自分でやってみることが、自分の強みであり能力であるという思い込みがあるため、Aさんが他人から相談された、頼りにされた過去の経験を語ってもらい、そのときどのように感じたか、確認してもらう。そして他人に相談すること、頼ることは、決して能力が無いこと、弱さを見せることではないということに気づいてもらい、仕事に前向きに取り組めるよう支援していく。
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