問題の傾向
基本的な設問は前回から変更されていません。ただ、「問い1」における5つの指定語句を使用して、事例Ⅰと事例Ⅱの違いを記述する問題について、今回の指定語句のひとつ「励まし(もしくは励ます)」については、今までにない指定語句となっています。第20回試験の指定語句として「励まし」が登場しましたが、その時は「(もしくは励ます)」が付いていませんでした。また指定語句に括弧書きで補足されるようなことは初めてです。
受験生にとっては単に指定語句の使用の仕方が増え、解答し易くなったという見方もできますが、キャリアコンサルタントにとって「励まし」と「励ます」という言葉は、名詞と動詞以外に大きな意味の違いがあることに注目すべきです。
「励まし」は、アイビーのマイクロカウンセリングにおける基本的傾聴技法のひとつのことです。クライエントの言葉を短く繰り返して応答し、クライエントが自分の気持ちや考えを探求し、クライエントが語ることを励まされまされる、といった技法です。
一方、一般動詞の「励ます」は、キャリアコンサルタントが面談のなかでクライエントを文字通り「励ます」行為で、「やってはいけないことに」に分類される応答です。キャリアコンサルタントによって励まされたクライエントは、自分の感情や経験を無視されたと思ったり、軽んじられたと思ったりしてしまうのです。彼らは自分の問題が無価値であると感じるのです。励ます言葉が誠意を欠いていたり、問題を深く理解していないように受け取られると、無効化感を引き起こし、クライエントが心を閉ざしてしまう(ラポールが崩れる)可能性があるのです。
このような指定語句の設定は、問題の難易度を上げるためのものかもしれませんが、キャリアコンサルタントとしての基本的な応答を着実に理解し、冷静に対応していきたいところです。
「問い1」の解き方
「問い1」は、「指定語句使用」というハードルがあるため、最も時間を浪費し易い問題なので、短時間で確実に合格ラインの解答を仕上げていく、これまでの解き方を踏襲し、解答を進めていきます。
まずは、5つの指定語句に着目し、逐語録の事例Ⅰと事例Ⅱにおいて指定語句と関連するCCtの応答、発言を抜き出します。CCtの応答は事例Ⅰで5回、事例Ⅱで5回、合計10回ありますのでその中で5つの指定語句それぞれの関連部分を特定していきます。指定語句の特定例は下記のとおりです。
- 励ます:事例Ⅰ CCt10「Aさんはこれまで介護職目指して頑張ってきたのですから、頑張りましょう。」
- 助言:事例Ⅰ CCt7「もう少しいろいろな経験をしてみてはいかがですか。」
- 問題解決:事例Ⅰ CCt6「視野を広げて他のサービスを見てみるのはどうですか。」
- 内省:事例Ⅱ CCt9「Aさんの何がお手伝いを続けさせたんでしょうね。」
- 客観視:事例Ⅱ CCt10「嫌われないために、しんどいことを我慢している自分をどう思いますか。」
次は、あらかじめ準備していた解答パターンに、上記の要素を含めて解答文の作成に取り掛かります。解答パターンとは、例えば次のように作成します。
CCtが面談することの目的に沿った基本的な流れ、すなわち、「受け止め」⇒「寄り添い」⇒「経験の再現」⇒「自己探索」⇒「気づき」の流れを盛り込むということです。事例Ⅰ・Ⅱの共通部分の最後のCLの発言は、CLの感情が込められた言葉が必ず出てきます。この言葉を受け止めているか、受け止めていないかが、面談の方向性の違いのきっかけになっています。今回の逐語録では「不安」です。
どのような事例でも適用できるように次のような解答パターンを事前に準備しておきます。事例Ⅰが「クライエントの自己探索が進まない展開」、事例Ⅱが「クライエントの自己探索が進む展開」とした場合の解答パターンの例です。
「事例Ⅰでは、CLの(感情)という感情を受け止めようとせず、「(自己探索が進まない具体的なCCtの応答の内容)」という(指定語句)のため、CLに寄り添うことなく、CLの自己探索が進まない展開となっている。一方事例Ⅱでは、CLの(感情)という感情を受け止め、 「(自己探索が進む具体的なCCtの応答の内容)」という(指定語句)のため、CLの自己探索が進む展開となっている。」
この解答パターンに最初に特定した指定語句に対応するCCtの発言、応答を当てはめて解答を完成させていきます。
「問い1」の解答例
事例Ⅰでは、Aさんの「こんな対応をしていて、介護職をやっていけるのだろうか」という「不安」を受け止めようとせず、「視野を広げて他のサービスを見てみるのはどうですか。」と問題解決に走ったり、「もう少しいろいろな経験をしてみてはいかがですか。」とCCtの一方的な考えで助言をしたり、「Aさんはこれまで介護職目指して頑張ってきたのですから、頑張りましょう。」と励ますことで、Aさんに寄り添うことなく、Aさんの自己探索が進まない展開となっている。一方事例Ⅱでは、Aさんの「不安」を受け止めて、「不安」のきっかけとなった経験を再現させ、「Aさんの何がお手伝いを続けさせたんでしょうね。」と内省を促したり、「嫌われないために、しんどいことを我慢している自分をどう思いますか。」と客観視させることで、Aさんの自己探索が進む展開となっている。
「問い2」の解き方
CCtの応答が相応しいか、相応しくないか、理由をつけて答える問題。CCtとしての応答で「相応しい応答」、「相応しくない応答」をあらかじめ整理しておくことで即答可能な問題です。一例として次のように整理しておきます。
「相応しい応答」・良い問題解決や成長を導き出す ・ニーズを感じる ・問題解決のプロセスを促すかかわり ・自己探求を深める質問 ・自問自答を促す質問 ・自分の問題を明確にしていくのを支援する質問 ・CLの語りを促す ・焦点をCLのニーズに当てる ・自分を客観視させる応答
「相応しくない応答」・正しい答えは何だろうと考える ・CCtの興味で質問する ・CLを方向づけてしまう ・何気なく思いつきで自己開示する ・CCt自身が話したいことを話す ・CCtの価値観で・・・ ・CCtが断定的に・・・ ・問題解決に走る ・CCtが一方的に決めつける ・誠意を欠いた励ましをする ・CLの感情や経験を無効化する
「問い2」の解答例
事例ⅠのCCt10:相応しくない(理由:「ただ言いなりになっていたような気がします。」というCLの葛藤を受け止めず、問題を深く理解せずCLの感情や経験を無効化するような応答で、Aさんに寄り添っていない。)
事例ⅡのCCt10:相応しい(理由:嫌われないようにしんどい要求に応えてきたというAさんの感情を受け止めて、Aさんが自分自身を振り返り、客観視させるための応答で、Aさんの内省を促している。)
「問い3」の解き方
相談に訪れたクライエントは、自己概念(ありたい自分)と出来事(経験)の不一致が生じている状態で、なぜそうなっているのかわからない状態に陥っている(「悩み」)と考えられます。その「悩み」の中身は「不安」「不満」「不快」「葛藤」などです。そして、その不一致の原因が「相談者の問題点」です。相談者はそうした「自身の問題点」があることに気づいていない(原因がわからない)、または、自分以外の他者や外部環境に問題があると思い込んでいるのです。
「相談者の問題点」を導き出すための手順としては、設問の逐語録を読み解き、面談を俯瞰して、その流れ(ポイント)をまとめて、「来談動機」「自己概念」「経験」「キーワード(自己概念の影)」を整理して、相談者の「主訴」を想定していくことが早道となります。「主訴」を想定する上でヒントとなる重要な要素は「キーワード(自己概念の影)」を的確に捉えることです。今回の逐語録で当てはめてみると一例として次のように整理できます。
- 来談動機:今までずっと介護職を目指していたが、本当にそれが自分に向いているのか自信がなくなった
- 自己概念:困っている人を、助ける人になりたい
- 経験:主任から「お手伝いも大切ですが、利用者さんの『自分でできる喜び』を奪ってしまわないかということを考えましたか。」と言われた
- 主訴:困っている人を助けるという本当の意味を理解し、自信をもって介護職を目指していきたい
- キーワード(自己概念の影):我慢
「問い3」の解答例
困っている人を助けるということは、要望に応え嫌われないように我慢することである、と思い込んでいるところがあり、「介護職」とはどのような職業で、利用者に対して何をもたらすのか、など、介護職に関する職業理解不足がある点。
「問い4」の解き方
今後の面談の方向性は、相談者の主訴(「困っている人を助けるという本当の意味を理解し、自信をもって介護職を目指していきたい」)を意識し、相談者の問題点(「困っている人を助けるということは、要望に応え嫌われないように我慢することである、と思い込んでいるところがあり、「介護職」とはどのような職業で、利用者に対して何をもたらすのか、など、介護職に関する職業理解不足がある点。」)を前提とした解決に向けた支援ということになります。事例Ⅱの最後のCLの発言がその後のやりとりの出発点となります。
「う~~ん」と自己探索が進んでいることが示され、「それって利用者さんのためと言いながら自分のためですよね。何やっているんだろう。」と、自問自答が続いています。CCtとしては、この発言を捉えて、さらにCLの自己探索を深めて「気づき」を「自己決定」へ導く支援をしていくことになります。
「問い4」の解答例
「困っている人を助ける」という意味をAさん自身で確認してもらうため、これまでAさんが困っている人を助けた経験を語ってもらい、どのように感じたのか、何が最も大切なことなのかなど、自身に向き合い、気づいてもらう。また、介護職を目指すにあたっての職業理解不足が考えられるため、介護職という職業について、あらためてその本質を確認してもらい、介護職の道を進むことについて、前向きに取り組めるよう支援していく。
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