問題の傾向
今回の論述試験の逐語録は、過去の論述試験の出題にはない構成で、「主訴」確認するためのキャリアコンサルタントの経験への問いかけが、事例Ⅱの冒頭になかったり、相談者の「主訴」が見えにくいものとなっています。
来談動機となった相談者の抱えている「不安」とは、「他者から嫌われたくないために、他者の意見を優先する」といった相談者自身の生き方(ライフスタイ)から生じているとシンプルに考えられます。
「他者」とは、時にはスタッフであり、上司であり、親会社であったり・・・。「不安」を抱いたきっかけは、会社が大手スーパーの子会社になったことですが、その親会社からの一方的な指示を受けたこと(経験)が「不安」を引き起こしたものではない、ということを押さえておく必要があります。
「他者から嫌われたくないために、他者の意見を優先する」というライフスタイルは、相談者の幼少時から形成されていったものと思われますが、入社後配属された店舗での出来事、すなわち、自分はもめごとに加わりたくないがために、自分とは違ったスタッフの意見を優先させ、結果的に店長を孤立させ辞めさせてしまった、という事件が「不安」の始まりと考えるべきです。
相談者の発言で「同じようなことをやっていく」「これまでのやり方が間違っていた」「親会社に対しても繰り返す」とありますが、これらは「他者から嫌われたくないために、他者の意見を優先する」というライフスタイルが原因で、仕事に対する「モヤモヤ」感が継続していて今後も繰り返されるという「不安」を招いているという現れです。
「問い1」の解き方
手順としては、まず指定語句に着目して、その指定語句がキャリアコンサルタントのどの発言に関連するかを特定し、解答パターンに当てはめて解答文を完成させるという流れです。
- 「共感」:事例ⅠCCt9「別のスーパーの求人を探してみましょう」
- 「決めつけ」:事例ⅠCCt6「組織ですから、親会社の言うことに従うのはおかしくないですよね。」
- 「助言」:事例ⅠCCt8「思い切って、他の業界に転職してはいかがでしょうか。」
- 「ものの見方」:事例ⅡCCt6「それはどういうことでしょうか。」
- 「自己探索」:事例ⅡCCt9「そのようなご自身がどんなふうにみえますか?」
解答パターンの例としては下記の通りです。これに上記の指定語句の部分を当てはめ解答文を完成させます。
「事例Ⅰでは、CLの(感情)という感情を受け止めようとせず、「(内省が進まない具体的なCCtの応答の内容)」という(指定語句)のため、CLに寄り添うことなく、CLの内省が進まない展開となっている。一方事例Ⅱでは、CLの(感情)という感情を受け止め、 「(内省が進む具体的なCCtの応答の内容)」という(指定語句)のため、CLの内省が進む展開となっている。」
「問い1」の解答例
「事例Ⅰでは、CLの「自分が情けなくなった」という感情を受け止めようとせず、「別のスーパーの求人を探してみましょう」と共感しなかったり、「組織ですから、親会社の言うことに従うのはおかしくないですよね。」と決めつけたり、「思い切って、他の業界に転職してはいかがでしょうか。」と助言することで、CLに寄り添うことなく、CLの内省が進まない展開となっている。一方事例Ⅱでは、CLの「自分が情けなくなった」という感情を受け止め、 「それはどういうことでしょうか。」とCLのものの見方を確認したり、「そのようなご自身がどんなふうにみえますか?」と自己探索を促すことによって、CLの内省が進む展開となっている。」
「問い2」の問い方
キャリアコンサルタントの応答が「相応しいか」、「相応しくないか」を答える問題です。この問題は次の2つの着目点で捉えます。
- 相談者の気持ちを受け止めて相談者に寄り添っているかどうか
- 相談者の内省(自己探索)を促しているかどうか
「問い2」の」解答例
- 事例ⅠCCt9:相応しくない(理由:「自分が言いなりになろうとしているのが嫌」というAさんの気持ちを受け止めず、キャリアコンサルタントが一方的に決めつける応答で、Aさんに寄り添っていない)
- 事例ⅡCCt9:相応しい(理由:Aさんの経験の語りからその時のAさんを客観視させる応答で、Aさんの内省を促している
「問い3」の解き方
Aさんは、「ありたい自分」に意味づけられたの「モノの見方・考え方」(自己概念)に自信を持てなくなった(「揺らぎ」)ため、相談に来ている
「揺らぎ」の背景には、Aさんが「他人事の世界」に追いやった「見たくない自分」「忘れてしまいたい経験」が控えている
職場がうまく回るためには「上司とスタッフの両方と良好な関係を保つ」「言いたいことをグッと飲み込んだり、やりたい企画を通すために根回しする」ことが必要、というのは「見たくない自分」に紐づいている「借り物の自己概念」である
「見たくない自分」とは、「周囲から嫌われないように逃げているだけの自分」のこと
Aさんは「見たくない自分」に紐づいた「借り物の自己概念」を抱いており、「ありたい自分」に近づくためには「自己概念の修正」が必要になる
「相談者の問題」は、「揺らぎ」の背景にある他人事の世界に追いやった「見たくない自分」を創り出しているもの
「問い3」の解答例
「他者から嫌われたくないために、他者の意見を優先する」というライフスタイル
「問い4」の解き方
- 「ありたい自分」をしっかりと自分の中に定着される(「ありたい自分」を視点に経験を確認していく)
- 印象に残っている経験をその「ありたい自分」で説明できるかどうか検証していく(人生の今までの経験が「ありたい自分」につながっていると感じられるかなどを検証していく)
- 「自己概念」を明確にして、「ありたい自分」に基づいた経験を生み出すための課題設定(「自己概念」を実現するためにはどのようなことをすればよいのかを考える)
- 「見たくない自分」を観て「自己概念」(モノの見方・考え方)の修正を促す
- 「自己概念」に新たな経験を取り込む(「自己概念の成長・発達」)
「ありたい自分」とは、「今の自分の中」にあり、自分自身を「良い」と思う方向に向かわせるエネルギー。問題の出来事に対して「自分の問題としてとらえる」「何とかしようとする」「何とかできる」と思う世界
「問い4」の解答例
・Aさんの「ありたい自分」を明確にするため、「本当は年齢や立場に関係なく意見を交わしたいと思っている」というAさんの発言を受け止めて、年齢や立場に関係なく意見を交わしたことが印象に残っている出来事(経験)を語ってもらう。
・Aさんの「見たくない自分」を明確にするため、「周囲から嫌われないように逃げているだけ」ということが印象に残った出来事(経験)を語ってもらう。
・Aさんの「問題点」を明確にするため、語られた経験が、Aさんの「ありたい自分」に基づいているのか、「ありたい自分」につながっているのか、「見たくない自分が」そこに隠れていないのか、Aさんと共に確認・検証していく。
・Aさんの「自己概念」を修正するため、Aさんの「不安」の原因が、Aさん自身のライフスタイルにあることに気づいてもらうよう、Aさんと共に考えて仕事に前向きに取り組めるよう支援していく。
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