問題の傾向
第20回試験と比較し、基本的な出題形式の変更は無く、「仕事に前向きに取り組めない」といった職場での相談事例なので、過去問題での解き方や考え方を習得していれば、合格ラインの解答に仕上げることは十分可能かと思われます。
第20回の論述試験問題では、相談事例の内容や「問い1」の指定語句の傾向が一部変わったため若干難化したと思われたのですが、今回は全体的には従来の傾向に戻った出題であったと思われます。
「問い1」の解き方
5つの指定語句は、いずれも過去の問題で登場した基本的な語句で、解答文の中で「どのように使用したら良いか?」を迷うものはありません。だだし「感情」については若干抽象的ですので、具体的に「感情を受け止める」「感情を受け止めない」など語句を補完して認識するとわかりやすい、使いやすい指定語句になります。事例Ⅰ・ⅡにあるCCtの発言(全部で合計10回)の中から5つの指定語句に関連する発言と思われるところを特定し、解答パターンに当てはめて「CCtの目線」で面談全体を俯瞰し、その展開の違いを説明していきます。
繰り返しになりますが、「問い1」「問い2」の問題は、ある程度機械的に解答できる問題です。時間の浪費を最小限に抑え速やかに解答文を書き上げることによって、「問い3」「問い4」に掛ける時間が増えます。そして、論述試験全体の解答完成度(得点)が上がる結果につながるのです。
最初に、指定語句と関連するCCtの発言を特定していきますが、事例Ⅰと事例Ⅱの展開の大きな違いをあらかじめ押さえておきます。どのような違いかというと、それは「内省が進む展開」か「内省が進まない展開」か、ということです。
- 「経験」⇒「課長から注意されたんですね。どんなことがあったのですか?」(事例Ⅱ・CCt6)
- 「事柄」⇒「突然役職定年を言われたわけではないですよね。」(事例Ⅰ・CCt6)
- 「感情」⇒「感情を受け止めない」⇒「突然役職定年を言われたわけではないですよね。」(事例Ⅰ・CCt6)
- 「自問自答」⇒「どうしてそう思われたのですか。」(事例Ⅱ・CCt8」
- 「説得」⇒「現場の人と一緒に仕事をしていくには、これまでのプライドを捨てることが必要ですよね。」(事例Ⅰ・CCt10)
指定語句が逐語録のCCtの発言のどの部分に該当するのか特定できれば、あとは解答パターンに当てはめてまとめていくことになります。繰り返しになりますが「問い1」の設問にある「違い」とは事例Ⅰと事例Ⅱの「展開の違い」を述べるものです。解答の基本パターンとは「事例Ⅰでは、①のため、②という展開になっている。一方事例Ⅱでは、③のため、④という展開になっている。」 ということです。①③には「CCtの発言」、②④には「面談の展開方向」を入れていきます。ここで「面談の展開方向」とは、CLの内省が進む方向になっているか、進まない方向なのか、ということになります。
CCtが面談することの目的に沿った基本的な流れを解答文に盛り込むことも必要です。「受け止め」⇒「寄り添い」⇒「経験の再現」⇒「自己探索」⇒「気づき」の流れができているかどうか、ということです。事例Ⅰ・Ⅱの共通部分の最後のCLの発言は、CLの感情が込められた言葉が必ず出てきます。この言葉を受け止めているか、受け止めていないかが、面談の方向性の違いのきっかけになっています。今回の面談のキーワード(自己概念の影)はズバリ、「煙たがられる」です。ここはしっかり押さえましょう。解答パターンの基本形に上記の要素を組み込んだパターンの例は次の通りです。
「事例Ⅰでは、CLの(感情)という感情を受け止めようとせず、「(内省が進まない具体的なCCtの応答の内容)」という(指定語句)のため、CLに寄り添うことなく、CLの内省が進まない展開となっている。一方事例Ⅱでは、CLの(感情)という感情を受け止め、共感して、 「(内省が進む具体的なCCtの応答の内容)」という(指定語句)のため、CLの内省が進む展開となっている。」
「問い1」の解答例
「事例Ⅰでは、職場で自分の居場所を感じられずもやもやしているCLの感情を受け止めようとせず、「突然役職定年を言われたわけではないですよね。」と会社の制度など事柄についての質問や「現場の人と一緒に仕事をしていくには、これまでのプライドを捨てることが必要ですよね。」といったCCtの価値観で説得しよとすることによって、CLに寄り添うことなく、CLの内省が進まない展開となっている。一方事例Ⅱでは、「あれこれと自分が考えすぎているのかな。」というCLのもやもやした感情を受け止め、「課長から注意されたんですね。どんなことがあったのですか?」と経験の再現を促したり、役職定年の人が自分の部署にくるといい気持ちはしない、という発言に対し「どうしてそう思われたのですか。」とCLの自問自答を促す質問を投げかけることによって、CLの内省が進む展開となっている。」
「問い2」の解き方
CCtの応答が相応しいか、相応しくないかを理由をつけて答える問題です。CCtとしての応答で「やらなくてはならないこと」(=相応しい応答)「やってはいけないこと」(=相応しくない応答)をあらかじめ整理しておくことが必要です。
「やらなくてはならないこと」(=相応しい応答)
- CLにとって良い問題解決や成長を導き出す
- 目の前のCLをしっかり見てニーズを感じる
- 問題解決のプロセスを促すかかわり
- CLの自己探求を深める質問
- CLの自問自答を促す質問
- CLが自分の問題を明確にしていくのを支援する質問
- CLの語りを促す
- 焦点をCLのニーズに当てる
「やってはいけないこと」(=相応しくない応答)
- 正しい答えは何だろうと考える
- CCtが自分の興味で質問する
- CLをCCtの力で方向づけてしまう
- CCtが何気なく思いつきで自己開示する
- CCt自身が話したいことを話す
- CCtの価値観で・・・
- CCtが断定的に・・・
- 問題解決に走る
- CCtが一方的に決めつける
「問い2」の解答例
事例ⅠのCCt8:相応しくない(理由:役職定年で配属された新しい部署で雰囲気になじめずもやもやしているAさんの感情を受け止めようとせず、役職定年になると皆同じような気持ちになるといった断定的なCCtの価値観を一方的に押しつける応答で、Aさんに寄り添っていない。)
事例ⅡのCCt9:相応しい(理由:役職定年の先輩が自分の部署に配属されとき周りから煙たがられていたの見て、「自分はあのようにはなりたくないなと思っていました」というAさんの言葉を受け止めて、その意味を問う応答で、Aさんの自問自答を促している。)
「問い3」の解き方
この問題を解くにあたり、「相談者の問題」の本質とは何かを正しく理解、整理しておくことが前提となります。
相談者(CL)は様々な悩みを抱えて相談に来ます。その「悩み」の中身は「不安」「不満」「不快」「葛藤」などに分類できます。それらが生じている原因は、「自己概念」(ありたい自分)と「経験」(現実)とが合致していないためということになります。その合致していない原因に当たるものが「相談者の問題点」です。相談者はそうした「自身の問題点」があることに気づいていない(原因がわからない)、または「環境や他者に問題がある」と思い込んで悩み、相談にやって来るのです。
「相談者の問題点」導き出すための手順としては、設問の逐語録を読み解き、面談を俯瞰して、その流れ(ポイント)をまとめて、「来談動機」「自己概念」「経験」「キーワード(自己概念の影)」を整理して、相談者の「主訴」を想定していくことが早道となります。「主訴」を想定する上でヒントとなる重要な要素は「キーワード(自己概念の影)」を的確に捉えることです。今回の逐語録にで当てはめてみると一例として次のように整理できます。
- 来談動機:今の仕事にやる気が出ず、今後どのようにしたらよいのか不安になった
- 自己概念:長年の経験や技術を持ち合わせた役職定年者は、新しい部署でも頼りにされる存在だ
- 経験:遠慮せずメンバーに入り込んで、技術や経験を伝えてほしいと、課長から注意された
- キーワード(自己概念の影):周りから煙たがられる
「主訴」とは、現在相談者自身に降りかかっている「悩み」(「悩み」(「不安」「不満」」「不快」「葛藤」など)を無くしたい、解決したい、自身の「ありたい姿」を実現したい、ということです。これらを整理して今回の主訴を想定すると次のようになります。
主訴:新しい部署で、なかなかメンバー入り込めない自分を変えたい
「問い3」の解答例
経験や技術を持っていることが、メンバーから頼りにされる要件である、という思い込みがあるところ
「問い4」の解き方
今後の面談の方向性は、相談者の主訴(新しい部署で、なかなかメンバー入り込めない自分を変えたい。)を意識し、相談者の問題点を前提とした解決に向けた支援ということになります。事例Ⅱの最後のCLの発言がその後のやりとりの出発点となります。
「う~ん」と内省が進んでいることが示され、「何でそんな不自由なことをしているのだろう」と、自問自答が続いています。さらに「煙たがられたくない」「嫌われたくない」ために、「出しゃばらないように抑えている」というキーワードも出てきました。CCtとしては、この発言を捉えて、さらにCLの自己探索を深めて「気づき」を「自己決定」へ導く支援をしていくことになります。
「問い4」の解答例
経験や技術を持っていることが、メンバーから頼りにされる要件と思っていること自体が、過去の役職にこだわっていることを意味するため、Aさんの意識改革が必要である。そのため、Aさんの発言「言いたいことも言わず、出しゃばらないように抑えている」を受け止めて、その具体的な出来事(経験)を再現してもらう。そしてなぜ言いたいことを言わず、出しゃばらないようにしているのか、その理由や意味をAさん自身に気づいてもらう。そして、メンバーから頼りにされるという上から目線でのメンバーからの助けを待つのではなく、新たな部署のメンバーの一員とて同じ立場で意見の交換ができるよう、Aさん自ら意識を変えてもらい、仕事に前向きに取り組めるよう支援していく。
コメント